- 「デジャヴ」の意味と、どれくらいの人が経験する現象なのか
- なぜ「前に見た」と感じるのか、記憶研究が明かすそのメカニズム
- デジャヴは未来予知や超能力なのか、という素朴な疑問への科学的な答え
- 自分の記憶力とどう向き合っていくか
「あれ、この光景、前にも見たことがある気がする」——
初めて訪れたはずの場所や、初めてのはずの会話なのに、既に経験したことがあるかのような奇妙な感覚に襲われたことはありませんか。
これは「デジャヴ(既視感)」と呼ばれる現象で、多くの人が人生で一度は経験するとされています。
前世の記憶やパラレルワールドと結びつけて語られることもありますが、近年の心理学・脳科学の研究によって、その正体が少しずつ明らかになってきています。
この記事では、デジャヴという言葉の意味や語源、どれくらいの人が経験するのかという実態、そしてなぜ「前に見た」と感じてしまうのかという脳のメカニズムを、科学的な知見にもとづいて解説します。
デジャヴ(既視感)とは?どのくらいの人が経験する?
「デジャヴ(déjà vu)」は、フランス語で「すでに見た」という意味の言葉です。
日本語では「既視感(きしかん)」と訳され、実際には初めての体験であるにもかかわらず、以前にも経験したことがあるかのように感じる現象を指します。
この現象を長年研究してきたアメリカ・南メソジスト大学の心理学者アラン・ブラウン氏は、2003年に発表した既存研究のレビュー論文の中で、これまでの調査データを整理しています。
それによれば、人口のおよそ3分の2程度がデジャヴを経験したことがあると報告されており、決して珍しい現象ではないことが分かります。
また、デジャヴが起こりやすい場面としては「場所・光景」が最も多く、次いで「会話」が多いことも報告されています。
Brown, A. S. (2003). A review of the déjà vu experience. Psychological bulletin, 129(3), 394-413.
なぜ「前に見た」と感じるのか?記憶のメカニズムのズレ
では、なぜ初めての体験なのに「前にも見た」と感じてしまうのでしょうか。
この謎に心理学の立場から迫ってきた研究者の一人が、アメリカ・コロラド州立大学の心理学者アン・クリアリー氏です。
クリアリー氏は2008年に発表した論文(Current Directions in Psychological Science誌)の中で、デジャヴを「特徴に基づく親近感(feature-based familiarity)」という考え方で説明しています。
少し噛み砕くと、次のような仕組みです。
私たちの脳の記憶には、「これは前に見た・体験した」と確信を持って思い出す(想起)プロセスと、はっきりとは思い出せないけれど「なんとなく見覚えがある」という親近感(既知感)を覚えるプロセスの、2つの異なる働きがあることが、記憶研究の中で知られています。
デジャヴは、この2つのうち後者、つまり「親近感」だけが強く働いてしまい、前者の「想起」が伴わない状態で起こると考えられています。
具体的には、今目の前にある光景や状況が、過去に経験した何か別の状況と、部分的な特徴(部屋の家具の配置、会話の流れ、その場の雰囲気など)を共有していると、脳の中で「見覚えがある」という親近感の信号だけが強く発生します。
ところが、その元になった過去の記憶そのものは、はっきりと思い出せない(あるいは、意識に上らない)ため、「なぜだか分からないけれど、確かに前に見た」という、説明のつかない奇妙な感覚として体験されることになります。
クリアリー氏はこの現象を検証するため、大学のキャンパス内の見覚えのない写真を学生に見せたあと、数週間後に「実際にその場所を訪れたことがあるか」を尋ねる実験などを行い、写真で見ただけの場所を「訪れたことがある」と錯覚してしまうケースが実際に起こることを確認しています。
つまりデジャヴの正体は、超常的な現象ではなく、記憶の中の断片的な特徴が、意識に上らないまま照合され、「親近感」だけが先行してしまうという、記憶システムの通常の働きの延長線上にある現象だと考えられているのです。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Cleary, A. M. (2008). Recognition memory, familiarity, and déjà vu experiences. Current Directions in Psychological Science, 17(5), 353-357.
デジャヴは未来予知や超能力なのか?
デジャヴには、「次に何が起こるか分かる気がする」という、予知めいた感覚を伴うことがあります。
この感覚から、デジャヴを超能力や前世の記憶と結びつけて語る人もいますが、これは科学的に確かめられるのでしょうか。
クリアリー氏は2018年、共同研究者のアレクサンダー・クラクストン氏とともに、この点を直接検証する実験を行いました(Psychological Science誌に発表)。研究チームは、ゲーム「The Sims」を使って作成したバーチャルリアリティ映像で、参加者にいくつかの曲がり角を含む仮想空間を移動させました。
その後、空間的なレイアウトが似た(しかし内容は別の)シーンを見せてデジャヴを誘発し、「次にどちらに曲がるか」を予測してもらう実験を行いました。
その結果、参加者のおよそ半数が「次に何が起こるか分かる」という強い予感を報告したものの、実際の的中率は、ランダムに答えた場合と変わらないレベルにとどまりました。
つまり、デジャヴに伴う「分かる気がする」という感覚は、実際に未来を予知できていることを意味するものではなく、あくまで主観的な”感覚”にすぎないことが、実験的に示されたのです。
デジャヴという言葉が持つ不思議な響きから、パラレルワールドや前世との関連が語られることもありますが、本記事で紹介してきた研究が示すのは、あくまで記憶の照合プロセスにもとづく、説明可能な現象だということです。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Cleary, A. M., & Claxton, A. B. (2018). Déjà vu: An illusion of prediction. Psychological Science, 29(4), 635-644.
自分の記憶力を大切にするために
デジャヴの正体が「記憶の断片が、意識に上らないまま照合されて生じる親近感」だとすれば、この現象は、私たちの記憶がふだんどれだけ多くの情報を、意識しないところで処理しているかを教えてくれる例だとも言えそうです。
ふだん自覚することのない記憶の働きに目を向けてみると、記憶力そのものと日々どう向き合うかという問いにも、自然と関心が向いてくるのではないでしょうか。
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まとめ
デジャヴ(既視感)は、超常的な力や前世の記憶ではなく、目の前の状況と過去の記憶の断片が部分的に重なり合うことで、「思い出す」ことのないまま「親近感」だけが先行して生まれる、記憶システムの働きの一端です。
次に何が起こるか分かるように感じられても、それは実際の予知能力を意味するものではないことも、実験的に確かめられています。
多くの人が経験する身近な現象だからこそ、その正体を知ることは、自分自身の記憶の仕組みに関心を持つきっかけになるかもしれません。

よくある質問(FAQ)
- デジャヴと既視感は同じ意味ですか?
-
はい、「デジャヴ」はフランス語由来の呼び方、「既視感」はその日本語訳で、指している現象は同じです。
- デジャヴが多い人は、何か病気なのでしょうか?
-
いいえ。本記事で紹介したデジャヴは、健康な人にも日常的に起こる、非病的な現象です。ごく稀に、側頭葉てんかんなど特定の神経疾患の前兆・症状としてデジャヴに似た感覚が現れることがあるとする研究報告もありますが、これは本記事で扱う一般的なデジャヴとは異なるものです。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
- デジャヴは前世の記憶や、パラレルワールドの証拠ですか?
-
科学的にそれを裏付ける根拠は確認されていません。本記事で紹介した研究が示すのは、現在の状況と過去の記憶の断片が部分的に重なることで生じる、記憶の照合プロセスとしての説明です。
- 情報の正確性について:
本記事の内容は、執筆時点で確認できた学術論文・公的資料等に基づき作成しています。正確性の確保に努めていますが、新たな研究知見や検証により、内容が更新される可能性があります。 - 紹介した現象について:
本記事で扱うデジャヴは、健康な人にも日常的に起こる非病的なものです。ごく稀に神経疾患に伴って生じる場合があるとする研究報告もありますが、本記事はそうした病的な症状の診断や説明を目的とした医学的な情報ではありません。 - 医療行為の代替ではありません:
本記事は一般的な心理学・脳科学情報の提供を目的としたものであり、医師・臨床心理士等の専門家による診断、治療、または助言に代わるものではありません。また、紹介している成分や製品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。 - 効果の個人差について:
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