- なぜ、目の前にいるゴリラに気づけない人が半数もいるのか
- 「見えている」ことと「気づいている」ことは、実は別物だという発見
- 気づく力を高めるために、日常生活でできる工夫
- 自分の持続的注意力とどう向き合っていくか
白いシャツを着たチームが、バスケットボールを何回パスしたか数えてください——
そう言われて動画を見ていたら、画面の中央を、ゴリラの着ぐるみを着た人物が堂々と歩いて横切り、胸を叩いてから去っていった。
しかも9秒間も映っていた。そう聞くと、誰でも気づくはずだと思うのではないでしょうか。
ところが、実際にこの実験を行ったところ、およそ半数の参加者が、このゴリラに全く気づかなかったのです。
視力に問題があったわけではありません。
この記事では、「見えないゴリラ実験」として知られるこの有名な心理学実験の内容と、そこから見えてくる「非注意性盲目(ひちゅういせいもうもく)」という注意の仕組みについて、科学的な知見にもとづいて解説します。
「見えないゴリラ実験」の内容
この実験を行ったのは、アメリカの心理学者ダニエル・シモンズ氏とクリストファー・チャブリス氏です。
1999年に発表されたこの研究(Perception誌に掲載)は、”Gorillas in Our Midst(我々の中のゴリラたち)”というタイトルで知られています。
実験の内容はシンプルです。
参加者は、白いシャツを着たチームと黒いシャツを着たチームがバスケットボールをパスし合う様子を撮影した短い動画を見せられ、「白いチームが何回パスをしたか数えてください」という課題を与えられます。
動画の途中、ゴリラの着ぐるみを着た人物が画面の中央にゆっくりと歩いて入ってきて、カメラに向かって胸を叩き、そのまま画面の外へ去っていきます。
この間、およそ9秒間にわたって、ゴリラは画面にはっきりと映り続けています。
動画を見終わった参加者に「何か普段と違うものに気づきましたか」と尋ねたところ、驚くべきことに、およそ半数の参加者が、このゴリラの存在に全く気づいていませんでした。
パスの回数を数えるという課題に集中するあまり、視界の中に堂々と映っていたはずのゴリラを、文字通り「見逃して」しまっていたのです。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Simons, D. J., & Chabris, C. F. (1999). Gorillas in our midst: Sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception, 28(9), 1059-1074.
なぜ「見えているはず」のものが見えないのか?│「非注意性盲目」の正体
この現象は「非注意性盲目(inattentional blindness)」と呼ばれています。
目の機能そのものに問題はなく、ゴリラの映像は確かに参加者の目には入っていたはずです。
それにもかかわらず、意識の上では「見えなかった」ことになってしまう——
この不思議な現象は、私たちの「見る」という体験が、単に目に映像が入ってくるだけでは成立しないことを教えてくれます。
私たちの脳は、目に入ってくる膨大な視覚情報のすべてを、意識に上らせているわけではありません。
パスの回数を数えるという課題に注意を割り当てている間、脳はその課題に関係のない情報(ゴリラを含む)の処理を後回しにする、あるいは意識化しない、という選別を行っていると考えられています。
つまり、「意識にのぼる知覚(気づくこと)には、注意が向けられていることが前提として必要」だということを、この実験は具体的に示したのです。
なお、その後の研究では、視線の動きを追跡する機器を使った実験も行われています。
心理学者ダニエル・メンメルト氏の研究では、ゴリラに気づかなかった子供たちも、視線自体は実際にゴリラの方向に向いており、平均でおよそ1秒間ゴリラを見つめていたことが確認されています。
つまり、「目でしっかり見ている」ことと、「見た内容に意識的に気づいている」ことは、別々の働きだということが分かります。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Memmert, D. (2006). The effects of eye movements, age, and expertise on inattentional blindness. Consciousness and Cognition, 15(3), 620-627.
気づきやすさは、年齢や経験によっても変わる
この非注意性盲目は、誰にでも起こりうる普遍的な現象ですが、気づきやすさには個人差があることも分かっています。
関連する研究のレビューによれば、年齢が上がるにつれて非注意性盲目が起こりやすくなる傾向がある一方で、その作業に関する経験・熟練度が高い人ほど、非注意性盲目が起こりにくくなる傾向があるとされています。
なぜ、経験を積むと気づきやすくなるのでしょうか。
一つの見方として、不慣れな作業ほど、その作業自体をこなすことに多くの注意を割かなければならず、周囲の変化にまで注意を向ける余力が残りにくいのに対し、熟練した作業では、作業そのものに必要な注意の量が少なくて済むため、結果として周囲の変化に気づくための”余力”が生まれやすくなるのではないか、と考えられています。
運転や特定のスポーツ、仕事の熟練者が、初心者よりも周囲の変化に素早く気づけることが多いのも、こうした仕組みが関係しているのかもしれません。
日々の練習や経験の積み重ねが、思わぬ変化への気づきやすさにもつながっている可能性がある、という点は興味深いポイントです。

気づく力を高めるヒント
こうした注意の盲点に対して、何か対策はあるのでしょうか。
心理学者ティモシー・ショーフィールド氏らが発表した研究(Consciousness and Cognition誌に掲載)では、実験の前に短いマインドフルネス(今この瞬間に注意を向ける)のエクササイズを行ったグループは、行わなかったグループに比べて、非注意性盲目が起こる割合が低くなったことが報告されています。
もちろん、これは特定の実験条件下での結果であり、日常のあらゆる見落としを防げることを保証するものではありません。
ですが、目の前の作業に没頭するあまり周囲の変化を見落としてしまうという、この記事で紹介してきた注意の仕組みを知っておくこと自体が、運転中や仕事中に「一つのことに集中しすぎていないか」と、ふと立ち止まって確認する意識につながるかもしれません。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Schofield, T. P., Creswell, J. D., & Denson, T. F. (2015). Brief mindfulness meditation reduces inattentional blindness. Consciousness and Cognition, 37, 105-113.
自分の持続的注意力とどう向き合うために
見えないゴリラ実験が教えてくれるのは、「注意力が高い・低い」という単純な話ではなく、私たちの注意には限りがあり、何にその限られた注意を配分するかによって、見える世界そのものが変わってしまうという、注意の仕組みそのものです。
日常生活の中でも、スマートフォンを見ながらの歩行や運転など、注意が一点に集中しやすい場面は数多くあります。
具体的な生活習慣による対策については、「持続的注意力とは?加齢で低下するメカニズムと科学的に維持する4つの習慣」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
限られた注意という資源を、普段からどれだけ整った状態で使えているかは、思わぬ見落としを防ぐうえでも軽視できないポイントです。
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毎日の生活の中で、自分の認知機能と向き合うための選択肢の一つとして役立てていただければと思います。
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まとめ
「見えないゴリラ実験」は、視界にはっきりと映っているものであっても、注意が向けられていなければ意識に上らないことを、鮮やかに示した心理学の代表的な実験です。
「非注意性盲目」というこの現象は、注意力が低い人に限った話ではなく、一つの課題に集中しているからこそ誰にでも起こりうる、注意の仕組みそのものの一端だと言えます。
この仕組みを知っておくことは、日々の生活の中で、自分がどこに注意を向けているかを見つめ直すきっかけになりそうです。

なお、持続的注意力にまつわる脳の働きとしては、「ぼーっとする」時間に活発になる脳の回路、デフォルトモードネットワーク(DMN)についても解説しています。あわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
- 非注意性盲目は、注意力が低い人だけに起こる現象ですか?
-
いいえ。見えないゴリラ実験では、健康な成人のおよそ半数に起こったことが示されており、特定の人だけに起こる特別な現象ではなく、人間の注意の仕組みそのものに由来する、誰にでも起こりうる現象だと考えられています。
- 非注意性盲目と「注意力散漫」は同じ意味ですか?
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異なります。「注意力散漫」は注意がまとまらず色々なものに気を取られている状態を指すことが多い一方、非注意性盲目は、むしろ一つの課題に注意を強く集中させているからこそ、それ以外のはっきり見えているはずのものに気づけなくなる現象です。
- 車の運転で気をつけるべきことはありますか?
-
本記事は一般的な心理学研究の紹介を目的としたものであり、運転時の安全確保について個別の助言を行うものではありません。運転中の注意配分については、教習所等の専門的な指導や、公的機関が発信する安全運転情報を参照してください。
- 情報の正確性について:
本記事の内容は、執筆時点で確認できた学術論文・公的資料等に基づき作成しています。正確性の確保に努めていますが、新たな研究知見や検証により、内容が更新される可能性があります。 - 効果の適用範囲について:
本記事で紹介したマインドフルネスに関する研究結果は、特定の実験条件下で確認されたものであり、日常のあらゆる見落としや事故を防止することを保証するものではありません。 - 医療行為の代替ではありません:
本記事は一般的な心理学・脳科学情報の提供を目的としたものであり、医師・臨床心理士等の専門家による診断、治療、または助言に代わるものではありません。また、紹介している成分や製品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。 - 効果の個人差について:
GABA等の機能性関与成分に関する記述は、一般的な届出情報・研究知見に基づくものであり、特定の製品の摂取によって全ての方に同様の効果を保証するものではありません。体質や体調により、まれに合わない場合があります。 - 損害への責任:
本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、当サイトおよび運営者は一切の責任を負いかねます。最終的な判断はご自身の責任において行っていただけますよう、お願い申し上げます。
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