- 「何もしていない」時にこそ働く、DMNという脳回路の発見
- なぜ心はふとした瞬間に「さまよって」しまうのか
- DMNは集中力の”邪魔者”なのか、それとも創造性の”味方”なのか
- 持続的注意力を守るために、意識しておきたいこと
シャワーを浴びている時、電車に揺られている時、あるいは会議中にふと集中が途切れた時——
特に何かを考えているつもりはないのに、頭の中では次々と別のことが浮かんでは消えていく。
そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。こうした「ぼーっとする」「気が逸れる」状態のとき、脳は休んでいるわけではなく、「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる特定の神経回路が、むしろ活発に働いていることが分かっています。
この記事では、DMNとは何か、なぜ心が「さまよって」しまうのか、そしてDMNは集中力にとって敵なのか味方なのかを、脳科学の研究にもとづいて解説します。
脳が「何もしていない」ときも働いている?│DMNの発見
「デフォルトモードネットワーク」という考え方は、2001年にアメリカ・ワシントン大学の神経科学者マーカス・ライクル氏らが発表した論文(PNAS誌)によって、広く知られるようになりました。
ライクル氏らは、脳の血流や代謝の変化を画像化するPET(陽電子放出断層撮影)を使った複数の研究データを比較する中で、興味深いパターンに気づきました。
読書や計算といった、特定の目標に向かって意識を集中させる課題を行っているときには活動が”低下”する一方で、課題の合間の「安静にしている」状態では、決まって活動が”高まる”脳の領域群があったのです。
ライクル氏らはこの、いわば脳の”初期設定(デフォルト)”の状態で働く回路を「デフォルトモードネットワーク」と名付けました。
内側前頭前野や後帯状皮質・楔前部といった領域が、この回路の中心とされています。
この発見が示したのは、「何も考えていない」ように見える時間も、脳が単純に休止しているわけではなく、外部の課題から意識が離れたときに立ち上がる、独自の活動モードが存在するということでした。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Raichle, M. E., MacLeod, A. M., Snyder, A. Z., Powers, W. J., Gusnard, D. A., & Shulman, G. L. (2001). A default mode of brain function. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(2), 676-682.
なぜ心は「さまよう」のか?│マインドワンダリングとの関係
DMNが注目されるようになったもう一つの理由が、「マインドワンダリング(心のさまよい、mind-wandering)」、つまり今取り組んでいる作業とは関係のない考えが浮かんでくる現象との関わりです。
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のキャリーナ・クリストフ氏らは2009年、この関係を確かめるために、fMRI(機能的MRI)を使った巧妙な実験を行いました(PNAS誌に掲載)。
参加者に単純な反応課題(同じ作業を繰り返す中で、まれに出てくる特定の合図にだけ反応を控える課題)に取り組んでもらいながら、時折「今、作業に集中していましたか、それとも他のことを考えていましたか」と尋ね、その直前の脳活動を記録したのです。
その結果、「他のことを考えていた」と報告された直前には、内側前頭前野などDMNの領域が活発になっていることが確認されました。
さらに重要な点として、こうしたDMNの活動は、課題そのもののミス(反応すべきでない場面で反応してしまう等の”うっかりミス”)とも関連していました。
つまりマインドワンダリングは、単なる気分の問題ではなく、実際の作業パフォーマンスの低下、すなわち持続的注意力の途切れと、脳活動のレベルで結びついていることが示されたのです。
なお、この実験ではもう一つ興味深いことも分かりました。
DMNの活動がもっとも強く現れていたのは、参加者自身が「自分が今、他のことを考えていた」と自覚できていなかった場面だったのです。
つまり、気づかないうちにさまよっている心ほど、注意への影響が大きい可能性があるということになります。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Christoff, K., Gordon, A. M., Smallwood, J., Smith, R., & Schooler, J. W. (2009). Experience sampling during fMRI reveals default network and executive system contributions to mind wandering. PNAS, 106(21), 8719-8724.
DMNは”邪魔者”なのか?│創造性を支えるもう一つの顔
ここまでの話だけを聞くと、DMNは集中力にとって”邪魔な”存在に思えるかもしれません。
しかし、DMNの働きはそれだけではないことも分かってきています。
アメリカ・ノースカロライナ大学グリーンズボロ校のロジャー・ビーティ氏らは2015年、「身の回りの物の意外な使い道を考える」という創造性を測る課題に取り組む参加者の脳活動を調べました(Scientific Reports誌に掲載)。
その結果、創造的なアイデアを生み出しているときには、本来”対立する”関係にあるとされてきたDMNと、目標に向けた思考をコントロールする「実行系ネットワーク」が、むしろ協調して働いていることが分かりました。
しかも、より創造性の高い参加者ほど、この2つのネットワークの連携が効率的だったといいます。
つまりDMNは、単に注意を逸らす”邪魔者”ではなく、自由な発想やアイデアの組み合わせを生み出す土台としても働いている可能性があるのです。
集中して作業しているときに”望まずに”心がさまよってしまうことと、あえて心を解き放つ時間を作ることは、同じDMNの働きでも、意味合いが異なると考えられます。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Beaty, R. E., Benedek, M., Kaufman, S. B., & Silvia, P. J. (2015). Default and executive network coupling supports creative idea production. Scientific Reports, 5, 10964.
持続的注意力を守るために、意識しておきたいこと
ここまで見てきた研究をふまえると、DMNそのものを「敵」として排除しようとするのではなく、その働き方との付き合い方を考えることが大切だと言えそうです。
ここで特に注目したいのが、クリストフ氏らの研究が示した「自覚できていないマインドワンダリングほど、注意への影響が大きい」という発見です。
裏を返せば、作業中に「あ、今別のことを考えていたな」と気づくこと自体が、注意を引き戻す最初の一歩になる可能性があるということです。
意識的に休憩を取る、環境を整えるといった具体的な習慣については、「持続的注意力とは?加齢で低下するメカニズムと科学的に維持する4つの習慣」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
DMNという脳の仕組みを知っておくことは、そうした習慣がなぜ有効なのかを理解する土台にもなるはずです。
こうした脳の状態を日々意識しながら、自分の持続的注意力とどう向き合っていくかを考えることには、大きな意味があるのではないでしょうか。
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毎日の生活の中で、自分の認知機能と向き合うための選択肢の一つとして役立てていただければと思います。
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まとめ
デフォルトモードネットワーク(DMN)は、目標に向けた作業から意識が離れたときに活発になる脳の回路で、「ぼーっとする」時間や心の「さまよい」を支えています。
この働きは、作業中の”うっかりミス”と結びつく一方で、創造的なアイデアを生み出す土台にもなりうるという、二つの顔を持っています。
DMNをただ排除しようとするのではなく、集中する時間と心を解き放つ時間にメリハリをつけることが、自分自身の持続的注意力と上手に付き合っていくヒントになるかもしれません。

よくある質問(FAQ)
- デフォルトモードネットワークとマインドワンダリングは同じものですか?
-
厳密には異なる概念です。デフォルトモードネットワークは脳の特定の領域群を指す神経科学の用語で、マインドワンダリングは「作業と関係のない考えが浮かぶ」という心理現象を指します。研究によって、両者が関連していることが示されています。
- ぼーっとする時間は、なくすべきものなのでしょうか?
-
本記事で紹介した研究をふまえると、一概にそうとは言えません。作業中に望まず気が逸れてしまうことと、意図的に心を休める時間を持つことは、区別して考えるとよいかもしれません。
- DMNが乱れると病気になるのですか?
-
DMNの活動パターンと、一部の精神・神経疾患との関連を調べる研究分野も存在しますが、本記事で紹介したのは健康な人にも日常的に起こる正常な脳の働きについてです。特定の症状にお悩みの場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
- 情報の正確性について:
本記事の内容は、執筆時点で確認できた学術論文・公的資料等に基づき作成しています。デフォルトモードネットワークに関する研究は現在も進展が続いている分野であり、新たな研究知見や検証により、内容が更新される可能性があります。 - 紹介した研究の性質について:
本記事で紹介した研究は、いずれも健康な成人を対象とした基礎研究です。特定の精神・神経疾患の診断、説明、または治療法を示すものではありません。 - 医療行為の代替ではありません:
本記事は一般的な心理学・脳科学情報の提供を目的としたものであり、医師・臨床心理士等の専門家による診断、治療、または助言に代わるものではありません。また、紹介している成分や製品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。 - 効果の個人差について:
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