- スマホが「ただそこにある」だけで、使っていなくても脳の処理能力が下がるという実験結果
- 通知にすぐ対応すると作業は早く終わるのに、脳のストレスはむしろ増えるという意外な研究結果
- 作業を中断すると、意識を切り替えたつもりでも、心は前の作業に残ってしまう仕組みと、その対処法
スマホの通知、次々に届くAIチャットの返信、開きっぱなしの何十個ものタブ——
集中して作業したいのに、数分と経たないうちに何かに気を取られてしまう。
そんな感覚を覚えたことのある方は多いのではないでしょうか。
これは、意志が弱いからでも、集中力そのものが衰えたからでもありません。
私たちの脳が置かれている情報環境そのものが、以前とは比べものにならないほど、注意を奪い合う設計になっているためです。
この記事では、スマホやAIが私たちの注意力をどのように奪っているのかを、脳科学・心理学の研究にもとづいて解説し、”持続的注意力”を守るための具体的な工夫を紹介します。
スマホが「ただそこにある」だけで、注意力は削られる
まず知っておきたいのは、スマホを実際に操作していなくても、その存在自体が注意力に影響を与えるという研究結果です。
2017年、心理学者エイドリアン・ウォード氏らが学術誌「Journal of the Association for Consumer Research」に発表した実験では、参加者を「スマホを机の上に置く」「スマホをポケットやカバンに入れる」「スマホを別室に置いてくる」という3つのグループに分け、作業記憶力(一時的に情報を保持しながら処理する能力)や、初めて見るパターンを読み解く思考力を測るテストを受けてもらいました。
その結果、スマホを机の上に置いていたグループは、別室に置いてきたグループに比べて、成績が有意に低いという結果が出ています。
しかも、参加者自身は「スマホのことを意識していた」とは感じておらず、無意識のうちに、脳のリソースの一部がスマホの存在に割かれていたと考えられます。
つまり、通知が鳴っていなくても、スマホを見ていなくても、視界の中にスマホが「ある」というだけで、私たちの脳は、それに対応する準備のために、わずかながら処理能力を割いてしまっているのです。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Ward, A.F., et al. (2017). “Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity,” Journal of the Association for Consumer Research. スマホを操作していなくても、単に視界(机の上など)に存在しているだけで、無意識のうちに脳の処理能力(作業記憶力や思考力)が低下する現象。
通知にすぐ対応すると、作業は早く終わるのに、脳はすり減る
「通知が来たらすぐ確認した方が、後でまとめて処理するより効率的なのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、2008年に心理学者グロリア・マーク氏らが発表した研究は、この直感に反する結果を示しています。
この研究では、オフィスワーカーを対象に、作業を中断されずに行う場合と、途中でメールなどによる中断が入る場合とで、作業時間や心理的な負担を比較しました。
その結果、意外なことに、中断が入ったグループの方が、作業を完了するまでの時間はむしろ短いという結果が出ています。
これは、中断による遅れを取り戻そうとして、無意識のうちに作業のペースを上げるためだと考えられています。
ところが、ストレス・苛立ち・時間的プレッシャー・費やした労力感といった心理的な負担を測る指標では、中断が入ったグループの方が、いずれも有意に高い数値を示しました。
つまり、「通知にすぐ対応しても、作業自体は思ったより早く終わる」ということと、「その分、脳への負担は小さくて済む」ということは、まったく別の話だということです。
むしろ、素早く対応できているという感覚の裏側で、脳は着実にすり減っている可能性があります。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Mark, G., et al. (2008). “The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress,” CHI 2008. 通知などの割り込みが入ると、遅れを取り戻そうと無意識に作業ペースが上がり時間は短縮されますが、その代償としてストレス・苛立ち・時間的プレッシャーなどの「心理的負担(脳のすり減り)」が有意に増加することが示されています。
意識を切り替えたつもりでも、心は前の作業に残っている
作業を中断されたとき、私たちは「よし、切り替えよう」と意識を新しい作業に向けようとします。
しかし、2009年に経営学者ソフィー・ルロワ氏が発表した研究は、意識の上で切り替えたつもりでも、心の一部が前の作業に残り続けてしまう現象があることを示しました。
ルロワ氏はこれを「アテンション・レジデュー(注意の残留物)」と呼んでいます。
この研究によれば、特に、区切りのよいところまで終わらせずに作業を中断すると、その未完了の作業が心の中に残り続け、次の作業に取り組んでいる間も、無意識のうちに気を取られ続けてしまう傾向があります。
厄介なのは、これが「集中しよう」という本人の意図の強さとは関係なく起こる、という点です。
しっかり集中しようと思っていても、前の作業の残留物が、無意識のレベルでパフォーマンスを下げてしまうのです。
一方で、この研究は救いのあるヒントも示しています。
作業を区切りよく終えてから次に移った場合には、この残留効果は大きく軽減されるということです。
「きちんと終わらせてから切り替える」という、当たり前のようでいて実践しづらいことに、科学的な裏付けがあるということになります。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Leroy, S. (2009). “Why Is It So Hard to Do My Work?” Organizational Behavior and Human Decision Processes. 作業を中途半端な状態で中断して次の作業に移ると、本人の「集中しよう」という意図に関わらず、心の一部が前の作業に無意識に残り続け(残留物)、次の作業のパフォーマンスを低下させる現象。
では、”持続的注意力”を守るために、何ができるのか
ここまでの研究を踏まえると、AIやスマホに囲まれた環境の中でも、”持続的注意力”を守るためにできる工夫がいくつか見えてきます。
通知を追いかけ続けることは、思っている以上に脳にコストを強いている可能性があります。対応をまとめることで脳の負担を減らします。
「メールのチェックを1日3回に限定した週」と「好きなだけチェックしてよい週」を比較した結果、チェック回数を限定した週の方が、参加者の日々のストレスが有意に低いという結果が出ました。
集中したい作業の間は、スマホを机の上ではなく、視界に入らない場所や少し離れた場所に置くことが重要です。
手が届く距離にあるかどうかよりも、「視界に入っているかどうか」が、無意識の注意の割かれ方に大きく影響すると考えられます。
区切りよく終わらせることが難しい場合でも、「続きはここから」という具体的なメモを残しておくだけで、心の残留物を軽くできる可能性があります。
未完了の作業について、「いつ、どこで、何をするか」という具体的な計画を立てるだけで、その作業に関する侵入的な思考(ふとした瞬間に気になってしまう現象)が大きく減ることが示されています。
📚 出典:
・Kushlev, K., & Dunn, E.W. (2015). Checking Email Less Frequently Reduces Stress. Computers in Human Behavior, 43, 220–228.
・Masicampo, E.J., & Baumeister, R.F. (2011). Consider It Done! Plan Making Can Eliminate the Cognitive Effects of Unfulfilled Goals. Journal of Personality and Social Psychology, 101, 667–683.
こうした環境面の工夫に加えて、注意力そのものをサポートする習慣を取り入れている方もいます。
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まとめ
AIやスマホに囲まれた今の情報環境は、私たちの注意力を、かつてないほど多方向から奪い合う設計になっています。
スマホは「ただそこにある」だけで処理能力を削り、通知への素早い対応は、作業を早く終わらせる一方で脳のストレスを高め、中断された作業は、意識を切り替えたつもりでも心に残り続けます。
これらは、意志の弱さの問題ではなく、脳の仕組みそのものに根ざした反応です。
だからこそ、通知のまとめチェック、スマホを視界の外に置くこと、そして中断の前の一行メモといった、研究にもとづく小さな工夫の積み重ねが、”持続的注意力”を守るための現実的な手段になります。

- AIの”脳”を人間の脳に当てはめると、どこになるのか?
- スマホに頼りすぎることで記憶力に起こる変化「デジタル健忘症とは?」
よくある質問(FAQ)
- スマホの電源を切らないと、注意力への影響はなくならないのですか?
-
本記事で紹介したウォード氏らの研究では、電源のオン・オフではなく、スマホが「視界に入っているかどうか・手の届く距離にあるかどうか」という物理的な位置が比較されています。電源を切ることよりも、作業中は視界に入らない場所に置くことの方が、現実的で効果が期待しやすい工夫だと考えられます。
- 通知をまとめてチェックすると、返信が遅れて仕事に支障が出ませんか?
-
本記事で紹介したクシュレフ氏らの研究は、あくまで「1日3回」という頻度でのストレス軽減効果を示したものであり、あらゆる仕事の場面で通知を無視してよいということではありません。緊急性の高い連絡手段とそうでないものを分けるなど、ご自身の仕事の状況に合わせて、チェックする頻度を調整することをおすすめします。
- 作業のたびに「次にやること」をメモするのは、かえって手間になりませんか?
-
本記事で紹介したマシキャンポ氏らの研究で効果があったのは、詳細な作業記録ではなく、「次に何を、どこから始めるか」を具体的にイメージできる程度の、ごく短いメモです。中断のたびに必ず行う必要はなく、区切りよく終えられないと感じたときに、負担にならない範囲で取り入れる工夫として紹介しています。
- 情報の正確性について:
本記事の内容は、執筆時点で確認できた学術研究・報道および一般に公開されている情報に基づき作成しています。正確性の確保に努めていますが、新たな研究知見や検証により、内容が更新される可能性があります。 - 効果の適用範囲について:
本記事で紹介した研究結果は、実験条件下で確認されたものであり、日常生活のあらゆる集中・注意の場面に同程度で当てはまることを保証するものではありません。 - 医療行為の代替ではありません:
本記事は一般的な脳科学・心理学情報の提供を目的としたものであり、医師による診断、治療、または助言に代わるものではありません。また、紹介している成分や製品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。 - 効果の個人差について:
GABA等の機能性関与成分に関する記述は、一般的な届出情報・研究知見に基づくものであり、特定の製品の摂取によって全ての方に同様の効果を保証するものではありません。体質や体調により、まれに合わない場合があります。 - 損害への責任:
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