- 感謝の手紙を書くことが、3ヶ月後の脳活動にまで影響するという研究
- 感謝日記を3週間続けた人の脳で確認された変化
- 「感謝脳」という言葉を、自己啓発や宗教的な文脈とは切り離して考える
「感謝すると幸せになれる」「ありがとうを口にすると人生が変わる」——
こうした言葉は、自己啓発書やSNSなどで数えきれないほど目にします。
しかし、これらの多くは経験則や個人の体感にもとづくものであり、科学的にどこまで裏付けがあるのかは、あまり知られていません。
この記事では、「感謝」という行為が脳にどのような変化をもたらすのかについて、査読を経た学術論文にもとづいて解説します。
感謝の手紙を書いた人の脳に、3ヶ月後も残っていた変化
感謝と脳の関係を扱った研究の中でも、よく引用されるものの一つが、インディアナ大学のプラティック・キニ氏らが2016年に学術誌「NeuroImage」に発表した研究です。
この研究では、心理カウンセリングを受けている参加者に、特定の人に向けて感謝の気持ちを綴った手紙を書いてもらうという課題(実際に送るかどうかは問わない)を行い、その後fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使って脳の活動を計測しました。
その結果、感謝の手紙を書く課題を行った参加者は、行わなかった参加者と比べて、日常生活における感謝の気持ちの高まりが見られただけでなく、3ヶ月後の追跡調査においても、内側前頭前皮質という脳の部位で、感謝に関連する神経活動の変化がより大きく確認されたと報告されています。
一度きりの手紙を書くという行為が、3ヶ月という時間を経てもなお、脳の活動パターンに変化として残っていたという結果は、感謝という心の働きが、単なる一時的な気分の変化にとどまらない可能性を示唆しています。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Kini, P. et al. (2016) “The effects of gratitude expression on neural activity,” NeuroImage.
感謝日記を3週間続けた人の脳で確認された変化
もう一つ、感謝の実践と脳の関係を調べた研究として、オレゴン大学のクリスティーナ・カーンズ氏らが2017年に学術誌「Frontiers in Human Neuroscience」に発表した研究があります。
この研究では、18歳から27歳の女性33名を、感謝日記をつけるグループと、中立的な内容の日記をつけるグループに分け、3週間にわたって毎晩10分以上、日記を書いてもらいました。
実践の前後でfMRIによる脳のスキャンと、架空の寄付先を選ぶ課題を行ったところ、感謝日記をつけたグループでは、「自分の利益」よりも「他者(慈善団体)の利益」を優先するような神経活動のパターンが、腹内側前頭前皮質という部位で、対照群と比べて有意に強まっていたことが報告されています。
これは、感謝を意識的に記録するという習慣が、見返りを求めない利他的な動機づけに関わる脳の働きと結びついている可能性を示す結果です。
▽ 分かりやすく要約 ▽
Karns, C. M. et al. (2017) “The Cultivation of Pure Altruism via Gratitude: A Functional MRI Study of Change with Gratitude Practice,” Frontiers in Human Neuroscience.
「感謝脳」という言葉を、自己啓発や宗教的な文脈とは切り離して考える
「感謝脳」という言葉は、自己啓発書や一部の宗教的な文脈でも使われることがあり、「感謝すればするほど運気が上がる」といった、科学的な検証を経ていない主張と結びつけられることも少なくありません。
しかし、ここまで紹介してきたキニ氏やカーンズ氏らの研究が示しているのは、そうした主張とは異なる、もっと地に足のついた話です。
感謝の手紙を書く、感謝日記をつけるといった、具体的で再現可能な行動を一定期間続けた人たちの脳を、fMRIという客観的な手法で計測した結果、特定の脳部位の活動パターンに変化が見られた——
これはあくまで、査読を経た学術論文が報告している、限定的だが実証的な知見です。
「感謝すれば全てがうまくいく」という万能の教えとしてではなく、「感謝を言葉にして表現する、あるいは書き留めるという具体的な行動が、脳の働きと結びついている」という、地道な研究の積み重ねとして捉えるのが、科学的には誠実な向き合い方だと言えそうです。
▽ 分かりやすく要約 ▽
「感謝すれば全てがうまくいく」という万能の魔法(スピリチュアル)としてではなく、具体的な「行動の積み重ね」が脳の機能に変化をもたらすという、地に足のついた実証的知見として捉えることが重要です。
まとめ
感謝の手紙を書く、感謝日記をつけるといった具体的な行動が、脳の特定部位の活動パターンに変化をもたらすことを示した研究が、複数、査読を経た学術誌に発表されています。
キニ氏らの研究では、感謝の手紙を書くという一度きりの行為が3ヶ月後の脳活動にまで影響していたことが、カーンズ氏らの研究では、3週間の感謝日記の実践が利他的な動機づけに関わる脳の働きと結びついていたことが、それぞれ報告されています。
「感謝すれば人生が変わる」という漠然とした話ではなく、こうした一つひとつの具体的な研究の積み重ねとして、感謝という営みを見つめ直してみるのも、一つの視点かもしれません。

よくある質問(FAQ)
- 感謝日記をつければ、誰でも同じ効果が得られますか?
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本記事で紹介した研究は、特定の年齢層・人数を対象とした限定的な研究です。すべての人に同じ変化が起きることを保証するものではなく、個人差があります。
- 感謝の手紙は、実際に相手に送らないと効果がないのですか?
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本記事で紹介したキニ氏らの研究では、手紙を実際に送るかどうかは参加者の判断に委ねられており、送ることそのものが結果の条件になっていたわけではありません。手紙を書くという行為自体が、研究で扱われた課題でした。
- 感謝日記は、具体的にどんな内容を書けばよいのですか?
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本記事で紹介したカーンズ氏らの研究では、参加者は特別なフォーマットに従うのではなく、日々の生活の中で感謝を感じた出来事や、誰かに対して抱いた感謝の気持ちを、自由な文章で書き留める形で日記をつけていました。文字数や書き方に厳密な決まりがあったわけではありません。
- スマホの日記アプリでも効果がありますか?
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本記事で紹介したカーンズ氏らの研究は、そもそも紙の日記帳ではなく、オンラインの入力フォームへのリンクにアクセスして日記を書き込むという、デジタル形式で行われています。そのため、少なくとも「紙に手書きでなければ意味がない」というわけではなさそうです。ただし、これはパソコンやスマートフォンのブラウザから同じオンラインフォームに入力する形式であり、市販の日記アプリを使った場合と直接比較して効果を検証した研究があるわけではないため、特定のアプリで同じ効果が得られるかどうかを断定することはできかねます。
- 情報の正確性について:
本記事の内容は、執筆時点で確認できた学術論文・研究機関の発表資料等に基づき作成しています。正確性の確保に努めていますが、新たな研究知見や検証により、内容が更新される可能性があります。 - 紹介した研究の対象について:
本記事で紹介した研究は、いずれも特定の年齢層・人数を対象とした限定的な研究であり、すべての人に同じ効果が当てはまることを保証するものではありません。 - 医療行為・助言の代替ではありません:
本記事は一般的な脳科学情報の提供を目的としたものであり、医師による診断、治療、または助言に代わるものではありません。 - 損害への責任:
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